「こんちわー」
穏やかな日差しの中自分が後見人を努めている二人の錬金術師がゆるい挨拶と共に東方司令部へとやってきたのはお昼ご飯を食べるにはまだ少し早い時間だった。
可愛らしい見た目とは裏腹に彼にとっての禁句を述べるとすぐさま暴れ出す小さな嵐のような子供だ。
エドワード・エルリック。金髪に金目、口を閉じていれば地上に舞い降りた天使のような見た目であるがその言動によってそれらはすべて半減されている。
そんな子供がなぜ軍の施設にこうして緩やかな挨拶と共にやってくるのは他ならず彼が軍から認められた最年少国家錬金術師であり彼の願いを叶えるため少しでも情報を引き出す事である。
手に入れた情報を頼りに国中を歩き回り毎度毎度振り回されているのを見ると大人の私でも辟易するというのにこの子供はそれが当たり前なんだと言わんばかりにまた次へと走り出す。
自分の体はいいからせめて弟の体だけでも取り戻したいという気持ちはよく見れば兄弟愛であるが悪く言えば自己犠牲精神が強いとも言える。
この子供はきっと弟が助かるのであれば迷わずその身を捧げる危うさがある。
……いや、そこに関しては弟のアルフォンスも同じだなと思い思わずにやけてしまう口元を金色の子供に見られ気味悪そうに嫌味を言われるのだ。
「あれ?中尉は?」
「中尉なら今書類を取りに行ってて席を外しているよ。」
ふーんちょっと聞きたいことあって来たのになぁ…。と少し不満そうに生身の左手で頭をかきながら金色の子供は言う。
その顔色はいつも健康体で走り回っている彼の印象とは全く違い少し顔色が悪いように思える。この子供が体調を崩すことなど今まで一度も記憶に無いのでどうしたのかと少し心配になる。
「珍しく顔色が悪いようだが大丈夫なのか?中尉が来るまでそう時間は掛からないだろうソファに寝そべって楽な体制で待っておきなさい。」
弟のアルフォンスもすかさず言う。
「そうだよ兄さん。昨日くらいからずっと顔色が悪いよ。大佐の言葉に甘えて少し寝させてもらったら?」
弟一番主義のエドワードは弟の言葉には弱い。
「うーん……そうだな。わりぃ少し寝かせてもらうわ。」
と子供がソファに寝そべった所で弟のアルフォンスに容態を聞いてみる。
「アルフォンス、昨日くらいからと言っていたが鋼のに何か変わったことはあったのかい?」
「その……貧血で少しフラフラしているみたいで……。」
「あのいつも血気盛んな鋼のが?」
「はい。兄さんいつも無茶ばっかりするんでそのツケが回ってきたのではと」
にこやかな声でアルフォンスは言う。
「まぁ本人は中尉に聞けばいいとだけ言ったので報告書ついでに伺いました。」
はて?何故中尉に聞けばいいのかと分からず何も言えずにいると書類を持ったホークアイ中尉が戻ってきた。
「只今戻りました。あらエドワード君、アルフォンス君いらっしゃい。エドワード君体調が悪いようだけど大丈夫?」
「ホークアイ中尉お久しぶりです。兄さんちょっと体調が悪くて本人は中尉に聞きたいことがあるって言って……」
中尉はエドワードに近寄り立てる?と声を掛け
「少しエドワード君と話があるので仮眠室を借りますね。間違っても聞き耳などしないように」
とだけ言って奥の仮眠室へとエドワードを連れていった。