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暫く眠ったままのエドワードの頭を撫でていたが仕事を終わらせなければ中尉に発砲されると思ったロイは名残惜しそうに執務室へ戻った。


それからまた暫くすると中尉が新しい書類を持って戻ってきた。

「書類、ここに置いておきますね。私が留守の間エドワード君に何か変わった事はありませんでしたか?」

中尉の言葉に内心ドキリとしたロイだったが何事もなかったかのように言葉を述べるつもりだったが先程あの子供の服を着替えさせたのは自分だ。女だということを知らなかったとはいえ下着まで見てしまっている。ここでシラを切っても後々バレて鷹の目の餌食になるのは分かりきっている。ならば………

「中尉。君は鋼のが女の子だということを知っていたのか………?」

ロイがそう言った瞬間ロイの顔数センチ横を弾丸が通り抜ける。

「大佐。何故その事を知っていらっしゃるのか説明して頂いても?」

美人ほど怒った顔が怖いものはないというが今までに見たことがないような顔をした中尉が立っていた。

隣の部屋で弾丸が放たれたというのに当事者は未だに目を覚まさないらしい。

ロイは腹心の部下に銃を突きつけられながら事の顛末を話した。

「転けそうになったエドワード君を助けようと手を伸ばしたら手が胸に当たってしまいその感触で性別を聞いたと。本当にそれだけですか?」

「その…なんというか……」

ロイは居た堪れない気持ちで正座しながら述べる。傍から見れば供述させられているようにも見える。

「その後鋼のが気を失ってしまってな…その……いつもの服じゃしんどいだろうと思って着替えさせたんだ」

パァンッと乾いた銃声が部屋に鳴り響きその弾丸はさっきとは逆側のロイの顔数センチ横を通り抜けていった。

「言っておくがそれ以上のことはしていない!」

「当たり前です。もししていたのであれば大佐の眉間を撃ち抜かなければならないじゃないですか。同意ならともかく無抵抗の女の子をどうこうしたのであれば黙っていられませんからね。」

と言われロイは心底手を出さなくてよかったと思うと共にあの子供にはもしかすると中尉という最強の盾を手に入れたのではと思った。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

一方仮眠室では2度目に鳴り響いたパァンッという銃声で意識を取り戻したエドワードが居た。

「ん………。俺いつの間に…………。貧血でぶっ倒れたのか………。」

まだ血が足りないのかクラクラする頭で思いながら起き上がるとふと自分の服装が変わっていることに気がついた。自分で着替えた覚えもない為はて中尉か誰かが着替えさせてくれたのだろうかとあまり働いてくれない頭で思う。明らかに大人の男物だとわかるほどのぶかぶかな白いシャツは子供の小さい身体などすっぽりと覆い隠してしまっている。エドワードは思わず自分の股付近を見るとそこには寝ている間に漏れてしまったのであろう鮮血がシーツや着ているシャツを汚してしまっていた。

「うわ……最悪…………どうしよう………。」

倒れてしまう前にトイレに行こうと思って行ったのにも関わらずあの面倒くさい大人に阻まれ取り替えることができなかった為だ。

「錬金術で分解するか………血は鉄分と…………っとよし。」

両手を合わせベッドシーツに合わせた両手を置くとバシィッ!という音と共にベッドが薄く青く光る。


光りが収まるとそこには元通りの白いベッドシーツがあった。

得意の錬金術でシーツに付いた血液を分解したのだ。慣れた手つきで着ているシャツも綺麗にしたエドワードは起きた時に鳴り響いた銃声を気にした。


大佐にも女だということがバレてしまったし銃声が鳴り響いたという事は隣の執務室には中尉が居るはずだ。大佐が何かをやらかしたり片付けておかなければならない書類などが終わってない時は中尉が持っている銃が火を放つ。

トイレに行って当て物を取り替えたいところだが白シャツ1枚という恥ずかしい格好でこの司令部内は歩けないし何故か手元に着替えは無いし………と途方に暮れているエドワードのもとにコンコンと控えめなノックが鳴る。

「エドワード君?入っても大丈夫かしら?」

優しい声で中尉が言う。

それに答えるように扉を開けるといつもの黒の上下と赤コート、薬と水を持った中尉が立っていた。

「ありがとう中尉……その……なんていうか………。」

「何も言わなくて大丈夫よ。話は聞いておどしておいたから。大佐もそこまで馬鹿な人じゃない。とりあえず私も協力するからとまでは言わせたから安心して。」

流石は中尉何も言わずとも分かっているらしい。

「ありがとう中尉。ところでこのシャツってもしかして大佐のシャツ?着替えさせてくれたのって中尉だよな。いつもの黒の上下だと寝苦しかったしありがとう。」

「あら。エドワード君覚えてないの?…………そうね気絶したあとだったわね…………。」

「へ?なんの話?」

「そのシャツを着替えさせたのは私じゃなくて大佐なのよ………。」

「えっ…………?えええええええ!?ちょっと待って……という事は身体とかパンツとか当て物してるとこ見られた!!?」

「そういう事になるわね。」

ただでさえ女だということと絶賛生理中ということがバレてしまったのに身体も見られ追い打ちをかけられたような気がする。それも割と好意を抱いている男にだ。

要するにエドワードもまたあの大人に恋をしていた。

だが弟の事もあるし何よりエドワードにはやらなければならない事がある。

国家錬金術師という肩書はこの小さな体には重すぎるし普通であればエドワードの年頃の女の子は勉学に励んだり友達と遊んだり恋人を作ったりするものだ。

だがエドワードにはそんな相手はウィンリィ位しか居らずあとは大人だらけだ。そんななか母親の錬成に失敗してどん底から手を差し伸べたのはロイ・マスタングという男だった。

いや、手を差し伸べられたというか焔をつけられてしまったのだ。

 

 

 

 

焔の錬金術師という肩書を背負った男に。

その焔は瞬く間にエドワードの体を飲み込みその目に、心に焔を灯した。

それからは国家錬金術師になる為小さな体に不釣り合いの鋼の手足を着けリハビリを重ね1年という短さであの大人の前に現れたのだ。

相手は大人だし子供の初恋なんかで振り向いてくれるような大人だと思えない。ならば最初から望まないほうがいい。性別を偽ることにより女だからという理由で断られることが無いし危険と隣り合わせの旅だ。子供だからと言って断られる事も多い。性別を偽った方がなにかと便利が良かったのも事実だ。

そんなこともあってエドワードのことなど相手にしないのが明らかだ。事実、この大人は今日の今日までエドワードが女ということを知らなかったし知ろうともしなかった。


 

どれだけエドワードが願ったとしてもこの初恋は叶わない。


相手にされてないのは丸わかりだしそれに多すぎる願いは叶わないと相場が決まっているからだ………。

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